刑事手続のIT化検討会
2021年3月、法務省が、刑事手続における情報通信技術の活用について検討を始めた。論点項目には、書類のデータ化(例えば令状請求のオンライン化)や、捜査・公判における非対面化(証人尋問や公判への出頭のオンライン化など)が挙げられている。検討会を構成する刑事法研究者や実務家の委員たちが、刑事手続のIT化に向けて積極的に議論していると聞く。
刑事手続のIT化は、弁護人の弁護を受ける権利や公正な裁判を受ける権利をはじめとする被疑者・被告人の権利の保障に資する可能性を秘めている(注1)。遠方の警察署に行く代わりに弁護人が被疑者とビデオ通話で接見して法的助言をする、膨大な費用と時間を要する紙媒体ではなく電子データによって証拠開示するというのが分かりやすい例だろう。
見落とされている論点
もっとも、挙げられている論点項目には重要な論点が抜けている。拘置所等に収容された被疑者・被告人と、家族や友人との電話・ビデオ面会である。勾留されている被告人が、家族や友人・恋人の顔を見て、声を聞いて交流することの意味は計り知れない。家族をはじめ大事な人と繋がり続けることは、収容されている人にとって拠り所、いわば生命線とさえも言える。
家族面会は、これまで刑事手続における問題としてほとんど論じられてこなかった。裁判所・裁判官による接見等禁止のあり方が問われることはあっても、そのような制約がない場合の問題について議論されることはあまりない。家族面会の意味について、私たち法律家もこれまで十分に検討してこなかったのではないか。
拘置所における面会の現状
施設に赴くしか面会できないことによる弊害は非常に大きい。東京拘置所など都市部にある刑事施設であっても、住んでいる場所によっては移動に相当の時間を要する。面会受付時間は、平日の午前8時から午後4時まで(東京拘置所の場合)で、休日や夜間は面会できない。面会するために、多くの社会人や学生は学校や仕事を休まなければならない。そのために面会を諦める人もいる。給料を失う人もいる。こうして苦労して出向いても、面会時間はわずか15-20分に限られている。
勾留されている親と面会する子どもにとっての負担も別に考える必要がある。距離や時間による制約のために大人が面会を諦めるということは、その大人に連れて行ってもらう他ない子どもも面会できないことを意味する。面会できるとしても、「刑事被告人を収容する」ものものしい雰囲気を持つ拘置所で、アクリル板越しに親と会うことが、子どもにどのような心理的負担を与えるのか想像されるべきだろう。
勾留されている被告人が外国人で、その家族や友人が国外にいる場合には、面会はさらに困難である(コロナ禍で入国が制限されている場合にはなおさらである)。その場合、弁護人を通じて、あるいは時間を要する手紙で用件を足すしかない。大事な人の身を案じ、面会するためにはるばる来日する人もいる。しかし、来日のために子どもを残して家を空け、あるいは仕事を長期間休まなければならないなど、物理的にも経済的にも大きな負担を強いられる。
電話やビデオ通話による面会の実現可能性
電話やビデオ通話を実現するためには、設備を整える必要がある。しかし、電話面会に限っていえば、必ずしも高度・複雑な技術を要するわけではないし、現行の制度でも一部認められている。
刑事施設処遇法は、受刑者の電話による面会について定め(146条)、一定の要件を満たす場合に電話面会が行われている。一部の拘置所では、被告人と弁護人とのビデオ面会を認める運用もある(注2)。また、法務省の管轄で多数人を収容する施設であるという点で共通する出入国在留管理庁の収容施設では、収容されている人が外部に電話をかけることができる。
電話やビデオ通話による面会のメリット
面会の機会を確保して家族との絆を維持することは、被告人の問題にとどまらない。
刑事施設に収容された被告人との面会交流の機会を確保することは、その子どもの権利でもある。親との交流は子の健全な成長に資するはずである。
まとめ
家族面会の現状は、収容されている被告人のみならず、家族や友人をはじめ面会する者にも多くの負担を強いている。親との結びつきを必要とする子どもの成長にも悪影響を及ぼす。他方、少なくとも電話面会については高度な技術が求められるものでもない。設備を整えることによって導入可能であるように思われる。